ラグビーワールドカップ。ジャパンチームはスコットランドに28:21で快勝。プール戦4戦全勝でベスト8に進んだ。当初の目標を達成できて、ほんとうに嬉しい。
4トライとも美しいトライだった。海外メディアの記事の中には「教材のようなトライ」との称賛もある。
1トライ目、センターのラファエレが松島を飛ばして福岡にパス。福岡がタッチライン際を猛スピードで走り抜け、タックルされるやオフロードパスで松島へ。ラファエレの判断も素晴らしかったが、チーターやフェラーリと称されるウイング二人が並走するトライは痛快であった。
(福岡から松島へオフロードパス)
2トライ目、堀江が身体を回転させてタックルをかわし、ムーアにオフロードパス、ムーアからトゥポウにもオフロードパス。最後にトゥポウも稲垣にオフロードパス。堀江のセンスと、流れるようなオフロードパスの3連発は秀逸だった。
(トゥポウから稲垣へラストパス)
3トライ目、ラファエレの狙いすましたグラバー(ゴロ)キックを、福岡が快速でキャッチし駆け抜けた。ディフェンスとの間合いが少ない状況で、縦回転の取りやすいゴロのキックパスを出したラファエレの技と、ボールをキャッチしながら駆け抜ける福岡のスピードに目を見張った。
4トライ目、福岡はラファエレとのダブルタックルで相手を止めるや、ボールをもぎ取り独走した。もぎ取る時にはじき出たボールを、地面に着く直前にキャッチした福岡の俊敏性と集中力に仰天した。
どのトライも、難しい技を、ミスなく流れるように、すごいスピードで実行した。ここに来るまで、どれだけの練習を積んだのか計り知れない。それを思うとこみ上げてくるものがある。
今日は、スコットランド戦でジャパンが何度も見せた「オフロードパス」について書いてみたい。
オフロードパスは、タックルされながら味方につなぐパス。「オフロード」の意味は「舗装されていない道」だが、普通にパスする時には起きないようなミスが起こりやすい難しいパスである。
タックルを受けると大きな衝撃を受けるので、思わぬ方向にボールが出やすい。ノックオンやスローフォワードのミスを犯しやすいし、味方にボールが渡らず相手にボールを渡してしまう危険性も高いからだ。
従来、オフロードパスが得意とされているチームは、ニュージーランド・オールブラックス。身体が大きく身体能力も高いので、タックルされても自分の身体をコントロールする能力が高い。その上、チーム全員がスピードがありラグビーを良く知っているので、パスを受ける方の選手が適切な位置に走りこんで来ていることが多い。パスを出す側と受ける側の両方が優れているからだ。
オールブラックスの中でもオフロードパスを得意とするのは、センターのソニー・ビル・ウィリアムズ(※1)。バックスにしては110sも体重があり大きい上に、プロボクシングのチャンピオンとなったほどの身体能力を持つ。彼のオフロードパスは、タックラーを自分の身体で完全に封じた状態で、空いたスペースに走りこんできた味方にパスを出すので、トライに結びつくケースが多い。
このように実に効果的なオフロードパスであるが、従来、日本のラグビー界ではこのプレーはどちらかというと「やるな」と指導されてきた。私も現役の時は、「タックルをされればボールを腹に抱えるように守って地面にダウンボールせよ」と教えられた。前述したように、ミスのしやすいパスなので「不用意なことをするな」ということであった。
ところが今年に入ってジャパンチームは、このオフロードパスの練習に力を入れてきたという。タッチラインぎりぎりの場所で、敵にタックルを受けながらゴールラインに飛び込むトライの練習にも力を入れてきたと聞く。
普通のことをやっていては勝てない相手に対して、稀にしか起こらないようなここ一番の際に効果の高い必殺技の訓練を積んできたということだ。
オフロードパスは、パスを出す側の能力が大切であるが、さらにパスを受ける側の「最善のタイミングで最善の位置に走りこむスピードとセンス」も大切である。チームプレーを重視し磨き上げてきたジャパンチームだからこそ、本番でも成功したと言えるのだろう。身体は大きくなくともジャパンチームに、実は向いていた技であったのだ。そのことを見越して練習を積ませた、ジェイミー・ジョセフを始めとしたコーチ陣の慧眼には恐れ入る。
次は、ベスト4をかけた南ア戦。ワールトカップに入ってから試合ごとに成長を続けているジャパンチームの、魂のこもった戦いが楽しみだ。
(※1)ソニー・ビル・ウィリアムズについてのエピソード
体重110sのスピードランナー。オールブラックスのセンターを担う前は、ヘビー級ボクシングのチャンピオンになったこともある。すごい奴だ。4年前のオールブラックスが優勝した直後の話。興奮した少年がグラウンドに走り降りてきた。それを警備員がタックルで確保。そこに寄ってきたソニー・ビル・ウィリアムズは、今しがた首にかけてもらった金メダルを、その少年の首にかけてあげてしまった。
家庭では、二人の女の子を愛する子煩悩のパパ。子供とたわむれる姿をテレビで見たことがある。
楕円球 〜日々思う〜 バックナンバー(ラグビー狂の筆者が、ラグビー日本代表へのエールを通じて、ラグビーの魅力を語ります)
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作成日:2019/10/18
オフロードパス