ラグビーワールドカップの開幕まで2か月を切って、日本代表はパシフィックネーションズカップに出場。フィジー、トンガ、アメリカに連勝し、優勝した。対戦相手は世界ランキング9位〜15位のチームが多く、ランキング8位以内のチームと戦って勝てるかについては安心できないが、今年になって初めてのテストマッチ(国代表同士の戦い)に三連勝した意義は大きい。
試合内容もラインアウトやスクラムのセットプレーが安定し、得意の速い展開によるトライも多く取れ、またディフェンスも良かったので、ワールドカップに向けて良い仕上がりと見えた。
特に、福岡堅樹、松島幸太朗の両ウィングが、持ち前の快足を生かして3トライずつと活躍した。
今日は、このウィングというポジションについて書いてみたい。
【トライゲッター】
ウィングは翼。バックスの両翼、フォワードから一番離れたサイドライン側に位置する11番と14番のポジションだ。たいていチームで一番足の速い選手が選ばれる。スクラムやラックなどの密集から一番離れているので、ウィングにボールが回る頃には、ディフェンスに来る敵の数が少なく、足の速いウィングが相手をかわして大きなゲインをすることを期待される。対面にマークするディフェンスがいないようなケースでは「そのまま独走してゴールラインまで走り切ってくれ」というわけだ。
それでも、たいていはウィングにボールが回ってくるまでに、相手のディフェンスが攻撃側のアタックラインと接触するので、ウィングが簡単に独走できるようなケースは少ない。その少ないケースを確実に生かして、トライをとる。トライが取れなくてもビッグチャンスを演出することが求められる厳しいポジションである。
実際、たいていのリーグのトライ王は、ウィングが占める。トライゲッターと言われる所以である。
足は速くなければ話にならないが、足が速いだけでは相手をかわすことはできず、トライは取れない。ジャパンで活躍するウィングは、それぞれが敵を抜き去るそれぞれのスタイルを持っている。
【世界に通用する日本のウィング】
まず、パシフィックネーションズカップでも活躍した福岡堅樹。今、ジャパンチームの中で一番俊足であると言われている。50メートル5秒8。特に瞬間的な加速が速い。通常ディフェンスは内側から来るので、相手にフェイントをかけステップで内側に抜く方が抜きやすいが、内側に抜くとすぐに次のディフェンスが来るので、ビッグゲインするには外側に抜くのが望ましい。外側に抜くには、相手とかなり走力に差があるか、ディフェンスに対して強くハンドオフで突飛ばしたりタックルをはじいてしまうような強さが要る。福岡は小柄ではあるが、最高のスピードに加えて、簡単には倒れない体幹の強さがある。タッチライン際の狭い場所で、ディフェンスを外側に抜き去るシーンを多く見せてくれている。
https://spread-sports.jp/archives/14432より
次に松島幸太朗。ジンバブエ人の父と日本人の母とのハーフゆえに、身体のバネがすごい。ステップをきって相手を抜くときの切れ味はピカイチ。バックスのラインにブラインド側から参加して相手の裏側に抜け出すようなプレーや、キックされたボールを一番後ろで受けリターンで走り戻す時などの切れ味はすごい。
朝日新聞digital 未来ノート−202X年の君へ−より
山田章仁。トライを取る嗅覚がすごい。サンウルブズがスーパラグビーに参加した初年度。中間点を越えた頃までは、スーパーラグビー全体のトライ数のトップを走っていた。トライチャンスにいつのまにか現れてトライを取り切る。その不思議な能力は際立っていた。4年前のワールドカップのトンガ戦、ゴール前に立ちはだかる敵を、クルリと回転してかわしゴールへ飛び込んだトライは忍者トライと讃えられた。
レメキ・ロマノ・ラヴァ。3年前のオリンピックの7人制ラグビーでエースとして活躍。ニュージーランドを破って4位入賞の立役者。ダンベルを挙げる力は、屈強なフォワードと合わせても上位3人に入るくらいの力持ち。スピードとパワーでディフェンスをなぎ倒すように抜いていく。
誰が選ばれても、ジャパンのウィングは、世界に通用するレベル。過去にもニュージーランド学生選抜相手に4トライし活躍した坂田好弘。テストマッチのトライ数の世界記録を持つ大畑大介など、世界に通用する力量を持つウィングが、ジャパンチームから生まれている。瞬間的なスピードと相手を抜くテクニックが物を言うウィングは、身体の小さな日本人でも活躍できる花形のポジションなのだ。
【ディフェンス】
ウィングの重要な役割には、ディフェンスもある(ディフェンスはどのポジションでも重要だが)。フルバックが前に上がっているような時は、ウィングが最後尾となるケースも多い。ウィングのタックルミスが、相手のトライに直結する場面はよくある。パワーと走力を兼ね備えた相手ウィングを、真正面からのタックルで仕止める勇気とフィジカルの強さが必要だ。
福岡堅樹はディフェンスも強い。3年前のオリンピックでニュージーランドを破った試合、試合終了間際に相手が独走し逆転されかけた時、猛スピードで駆け戻り、タックルで仕止めた場面は、福岡のスピードと気魄が凝縮した瞬間であった。
最近のラグビーでは、ウィングの役割も増えている。キックオフのボールを一番最初に追いかけるのは、以前はフォワードの役割と固定化していたが、最近はチームで一番足の速いウィングが追いかけるケースも多い。高く蹴られたボールの空中での争奪戦では、勇気と確実にキャッチするテクニックが必要だ。マイボールにできるかどうかの重要な役割を担う。
誰が選ばれても、今、ジャパンのウィングは優秀である。あと1ヶ月後に迫ったラグビーワールドカップで、ジャパンのトライゲッター達がグラウンドを駆け回る姿が楽しみだ。
楕円球 〜日々思う〜 バックナンバー(ラグビー狂の筆者が、ラグビー日本代表へのエールを通じて、ラグビーの魅力を語ります)
ラグビーワールドカップ2019日本大会の公式ホームページ
日本ラグビーフットボール協会 公式ホームページ
作成日:2019/08/20
ウィング